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弁護士 小田 康夫
2019.12.5

DNA鑑定は魔法の杖か~DNAの基礎知識~

DNA鑑定を魔法の杖のように扱ってしまった事件がありました。
「足利事件」です。
以前のコラムでも触れましたが(http://www.ak-lawfirm.com/column/1003)、足利事件はDNA鑑定への過信が招いたものと位置づけられています。
当時のDNA鑑定は、魔法の杖か、と問えば、NOであることは明らかです。また、DNA鑑定というものが「何者か」を十分に理解せずに裁判を進めていた、あるいは、科学という名で語られる立証を過度に信頼したことにも問題があるように感じています。

現在では、非常に精度の高い検査手法が採用されています。
適切な資料があれば、極めて精度の高い個人識別が可能です。
そのため、現代でもDNA鑑定の強みばかりが「一人歩き」して、メディアでも「容疑者のDNAと一致!」という大きな見出しで容疑者=犯人であるかのような指摘がなされます。

しかし、「容疑者のDNAが発見されたら、犯人と見て良いね」というと、そう単純ではありません。「適切な資料があれば」という前置きにはやや専門的な説明が必要となります。






そもそも、DNA鑑定は、
ある検査試料から、
→抽出
→増幅
→結果の解釈という手続きを踏んでいきます。

例えば、被害者のシャツから容疑者の血液と思われる部分を抽出し、分析可能となるように増幅されたDNAを人為的に作り出すことが出発点となります。

そもそもなぜ、DNAで個人識別が可能かというと、
このDNAの中身のパターンに個体差があるからです。
このパターンが異なることを専門用語で「多型」と言いますが、
DNA鑑定はこの多型を利用して個人識別や親子鑑定等を行うものです。

さて、だんだん難しくなっていきますが、
DNAって何なのでしょうか?
deoxyribonucleic acidの略で、日本語ではデオキシリボ核酸と言います。
DNAは、生命の設計図を意味しており、
その基本構造は、地球上に存在するすべての生物に共通しています。
ヒトの細胞は全部で約37兆~40兆個あり、
DNAは細胞核に中に存在します。
細胞1個の大きさは1ミリの20分の1(50ミクロン)しかありませんが、
その内部の核内に2メ―トルに達する長さで、
「核DNA」が存在します。

DNAには「塩基」と言われる4つの化合物の配列があります。
この4つは、
A(アデニン)
T(チミン)
C(シトシン)
G(グアニン)
と呼ばれます。
核DNAの基本的な形は、(新聞などでよく見る)二重らせん構造です。
この4つの化合物が、核DNAなら、30億~40億ほどの対になって、二重らせんを構成しています。

話を戻しますが、DNA鑑定は、
ある試料から
→抽出
→増幅
→結果の解釈という手続きを踏んでいきますが、

抽出され、増幅されたDNAには、塩基配列に個体差=「多型」があるといいました。
多型の種類には何種類かのパターンがあります。
日本の犯罪捜査に利用されているのは、
「繰り返しの数の違いによる多型」を調べる方法です。
現在の手法では(STR法=SはshortのS)、
例えば
AGCTという塩基配列が、
何度も繰り返されている部分があり、
10回繰り返されている人もいれば、
15回繰り返されている人もいます。
その個体差を利用して、判断します。

これを色々な場所(ローカス、遺伝子座、座位)で行うのが現在の犯罪捜査の主流で、
15種類のローカスと性別で行うことで、
極めて精度の高い個人識別を可能にすることができます。
例えば出現頻度が、0.01(100人に1人)の座位を15種類全部選択すれば、0.01の15乗となり(0.000000000000000000000000000001)、人類が70億人(7、000、000、000)程度であれば、一致することは、一卵性双生児でもない限り、起こりえない、という結論になります。






前置きが長くなりましたが、以上のDNA鑑定手法からおおよそ推察できると思いますが、
①微量・劣化ケース
例えば、DNAが極めて微量であれば、抽出ができないケースがあります。
また、DNAは変化に富んだ生命物質ですから細胞が死んで、時間が経過しており、保存された環境も悪い場合(例えば、湿気の多い状態であるなど)、劣化試料となってしまった場合には適切に増幅ができないケースがあります。

②汚染・コンタミ
他のDNAが混在するケースでは(例えば、被害者の血液と容疑者の血液)、ターゲットとしているDNAだけを抜き出す必要がありますが、結果が影響し合ってしまい、結果を適切に解釈できないケースがあります。

少し観点が変わりますが、
③DNA=個人の同定≠犯罪の同定
 例えば、被害者宅に残された包丁に容疑者の細胞が付着していたことがDNA鑑定により判明したとしても、その容疑者がその刃物を使って被害者を指したことまでを証明するものではありません。容疑者が被害者と親族であったのであれば、そのようなDNA鑑定の結果を重視して犯人を絞り込むことは、無益というか、有害ですらあります。

④事実認定者の捜査追認態度
 足利事件では、被害者から得られたDNA鑑定の結果が撮影された写真(写し)と菅家さん本人から採取した鑑定結果は、同一性を判断しようにも、ぼやけて判別しにくく、同一人のDNA鑑定の結果だとは考えにくいものでした。これは、鑑定の手法の前に、事実認定者たる裁判所の態度の問題に思えます。すなわち、えん罪を生み出した当時の裁判官は、結論として「多少ぼやけているが、似ているから問題がない」と、この曖昧なDNA鑑定結果を是認してしまいました。裁判所が、曖昧さを是認した背景には、やはり、最新の科学「的」鑑定への過度の信頼と捜査機関が「変なことはしないだろう」という暗黙の信頼があったように思われます。その意味で足利事件の問題は根深く、現在にも影を落としています。







さて、「現在のDNA鑑定は魔法の杖」か。
ここまでついてきていただいた方には、とてもそんなものとは考えられないと思うでしょう。その感覚は適切だと私は思います。

他方で、DNA鑑定が、過去のえん罪を暴く強力な武器になっているのも事実です。
裁判例でも、捜査機関が、「微量で検出できなかった」と指摘し、一審で有罪となった後、二審で再度、同一の試料でDNA鑑定がなされ、被告人と異なるDNA資料が検出された結果、無罪が確定した事案もあります(福岡高裁宮崎支部平28.1.12判時2316-107))。
米国では有罪確定後にDNA鑑定を行い、多くの無実の人が救われている事例が生まれているようです(https://www.excite.co.jp/news/article/HealthPress_201510_dna251300143/)。
先ほどのDNAの話を追加しますと、「核DNA」と異なり、細胞核の外にあるミトコンドリアにもDNAが存在します。「ミトコンドリアDNA」と呼ばれ、この形は、二重らせん構造ではなく、環状(わっか状)となっています。この「ミトコンドリアDNA」、「核DNA」より高感度で検査に出やすいと言われています。将来、日本でも極めて微量なDNAからでも無罪を積極的に立証していく手法が出てくるでしょう。