弁護士法人 荒井・久保田総合法律事務所

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弁護士 荒井 剛
2019.04.26

18歳は「大人」か

選挙権は20歳から、また、成人式といえば20歳を迎えた人たちを祝うものというように、いままで大人といえば漠然と20歳というイメージを持っていたかと思います。

しかし、数年前に公職選挙法が改正され、20歳が引き下げられ、18歳から選挙権を行使することができるようになりました。さらに、民法が改正され、18歳をもって成年とするということになり、18歳で親権者の親権に服さないことになりました。民法の改正のほうは2022年4月1日からの施行となりますが民法上の成年が18歳になることは大きな変化です。

このように公職選挙法や民法が改正された以上、今度は、少年法についても適用年齢を20歳から18歳に引き下げるべきではないかという議論がなされるようになってきています。現に、そのように法改正すべきかどうか少年法の法制審議会にて議論されているところです。素朴な感覚として、18歳で選挙にも行けるし、親権に服さなくてよくなったのだから少年法についても適用年齢を18歳未満に引き下げたほうがわかりやすいと思われるかもしれません。実際、多くの市民の方々はそう感じているのではないかと思います。

しかし、日本弁護士連合会は、少年法適用年齢を18歳に引き下げることに断固として反対しております。
https://www.nichibenren.or.jp/activity/human/child_rights/child_rights.html

また、釧路弁護士会もその一つでありますが、全国にある52の弁護士会すべてで反対声明を出しております。憲法改正問題や死刑制度の廃止・存置の問題などはイデオロギー、価値観、思想信条とも大きく関わるところですので全国ですべての弁護士会がまったく同一内容の意見を持つことは難しいところですが、この少年法の適用年齢引き下げ問題については反対という立場で完全に一致しております。

まず、法律によって目的が異なる以上、民法で18歳が成年とされたとしても少年法の適用される場面では20歳未満とすることは何ら問題ありません。現に、民法とは別の法律である未成年者飲酒禁止法や未成年者喫煙禁止法では依然として「未成年」は20歳未満と規定されています。

さらに、少年事件に関しては一定の誤解があるように見受けられます。
よく少年事件が増加し、また、凶悪化しているのではないか、だから厳罰化すべきではないかという意見を耳にしたりします。しかし、これは完全に誤解です。少年の検挙者数はピーク時の1983年の196、783人から2015年には38、921人と激減しております。割合でいくと約5分の1になっています。少年人口がそもそも減っている以上、検挙者数も下がるのは当たり前ではないかと思われるかもしれませんが、検挙者数のみならず少年人口あたりの発生件数自体も激減しております。具体的には、1983年には1000人あたり18.8人が検挙されていましたが2015年には5.5人にまで減っております。さらに、少年の殺人・傷害致死の件数及び少年人口あたりの発生数もピーク時の1961年と比べると大きく減っております。客観的な数字上のデータですので少年事件が増加、凶悪化しているという事実はまったくないということになります。さらに、現行の少年法の運用はまったく問題なく機能しています。この点は少年法の改正を議論している法制審議会のメンバーの共通認識であります。民法上も18歳になったのだから、少年法も18歳に引き下げるほうがわかりやすいよね、でも18歳、19歳がまだ大人になりきれていない側面があるのも事実だから少年法は適用しないけれど普通の大人とはまた異なる処分を考えようということを議論しています。それであれば最初から18歳、19歳にも現在のように少年法を適用し続ければいいだけのことです。

ところで、少年法は少年の健全育成を目的としています。罪を犯した人に対し、相応の罰を与えるための刑法とは異なります。少年の場合、「可塑性(かそせい)」があると言われたりします。可塑性とは、少年はまだ成長途中の段階であり、適切な教育を施すことにより十分に更生する可能性が高いという意味です。さらに少年の場合、周囲に流されやすく、また、リスクを顧みずに危険な行動に出る傾向があるため大人と質的に同様に非難をすべきではないということも言われています。

このあたりは、私自身、そうだろうなというそれこそ漠然とした認識しか持っていませんでしたが、最近、脳科学の視点から少年法の適用年齢引き下げには慎重であるべきだという論文を読み、腑に落ちました。

脳科学・神経科学の発展により、人間の脳は25歳ぐらいまで器質的にも機能的にも発達の途上にあるということが明らかになったというのです。感情を抑える前頭前野の部分が十分に発達しきれていないため青少年は危険に対する反応が甘く、また、危険を顧みずに暴走してしまいがちだということが脳科学的にも裏付けられたことになります。

このような視点からいけば少年法の適用年齢を20歳未満から18歳未満に引き下げるのではなくむしろ25歳未満まで引き上げるべきだというのが本来の筋かもしれません。しかし、少なくとも18歳未満に引き下げるべきではないということは強くいえるのではないでしょうか。

実は、アメリカでは、青少年期における脳の未成熟性が脳科学的にも裏付けられたことで、逆に、民法上の成年年齢を超えて少年法の適用対象年齢を引き上げる動きが出てきている州もあるそうです。具体的に挙げると、バーモント州では、2020年までに少年法適用対象年齢を19歳に引き上げ、2022年までに20歳までに引き上げることを決定したそうです。日本の場合はもともと20歳未満に少年法が適用されているわけですから、このままにしておくというのが一番いいと思っております。

18歳で親権に服さなくなった以上、18歳以上の者に対し国家が後見的立場で介入すべきではないという意見がありますが、脳科学の点からいけば少なくとも20代前半まで脳が発達しきれていない以上、むしろ逆に後見的立場から介入すべきであるといえるのではないかと思います。

ということで私自身も少年法適用年齢引き下げには反対です!

実は、今年の7月26日(金)、釧路市内のANAクラウンプラザホテルにて少年法適用年齢引き下げ問題をテーマにしたシンポが開催される予定です。一般市民向けシンポですので一人でも多くの人に参加してもらえれば嬉しいです。