弁護士法人 荒井・久保田総合法律事務所

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弁護士 鍛冶 孝亮
2019.03.14

保釈という希望の光

1.会社法違反(特別背任)などの罪で起訴されていた日産自動車前会長のカルロス・ゴーン氏の保釈が3月6日に認められました。
  この保釈により、逮捕から108日目に身柄拘束が解かれました。
  保釈にあたり裁判所に納めた保釈保証金は、10億円と報道されています。
  保釈が取り消されなければ戻ってくるお金であるとはいえ、10億円という高額な保釈保証金に驚いた方も多いと思います。

2.保釈という制度は、起訴された後の被告人の場合にしか使えず、起訴前の捜査段階にある被疑者の場合には使えません。
  そこで、弁護人は、被告人の希望も聞いた上で、起訴されたらすぐに保釈の請求を検討することになります。

3.刑事訴訟法には、権利保釈(89条)、裁量保釈(90条)が定められています。その他、勾留による拘禁が不当に長くなったときは、裁判所は、職権で勾留を取り消したり、保釈を許さなければならないという定め(91条1項)もありますが、ここでは、権利保釈と裁量保釈を紹介します。
  権利保釈とは、保釈の請求があった場合、法律で定められている事由がない限り、裁判所は保釈を認めなければならないというものです。
  具体的には、①死刑又は無期などの重たい罪を犯したとき、②以前に死刑又は無期などの重たい罪を犯し有罪の宣告を受けたことがあるとき、③常習として一定の重たい罪を犯したとき、④罪証隠滅行為が疑われる相当な理由があるとき、⑤被害者などの事件関係者への接触が疑われる相当な理由があるとき、⑥氏名又は住居が分からないときという事由です。
  実務的には、①から③、⑥の事由には該当しなくても、④又は⑤の事由に該当するとして、権利保釈が認められないことも多いです。
そこで、保釈を請求する場合には、権利保釈が認められると思われる場合であっても、裁量保釈も同時に求めています。
  裁量保釈は、「裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる」と規定されており、裁判所が様々な事情を踏まえ、保釈をするかどうか判断します。
裁量保釈を求める際は、逃亡や隠滅の恐れがないこと、保釈すべき必要性を具体的に主張していくことになります。
  罪証隠滅のおそれがないことついては、客観的可能性(例えば、捜査機関により証拠が収集済みであり、客観的な観点から罪証隠滅行為ができないこと)と主観的可能性(例えば、被告人は罪を認めており、罪証隠滅行為を行う意思はないこと)がないことを具体的に主張していくことになります。
  保釈すべき必要性については、例えば、長期にわたって身柄拘束をされれば仕事を失うことや家族関係に悪影響がでること(子どもの養育等)などを具体的に主張していくことになります。
  その他、保釈された後でも、被告人の生活を見守り、裁判には責任をもって出頭させることを約束している身元引受人がいることも指摘します。
  ゴーン氏については、3回目の請求で保釈が認められました。裁判の手続が一度も行われておらず起訴された罪名を否認しているという前回の保釈請求のときから具体的な事情の変更がないにもかかわらず、保釈が認められたことに驚いた人も多いと思います。
  報道によれば、ゴーン氏は弁護人を替えて、3回目の保釈の請求に臨み、自宅への監視カメラを設置する、事件関係者との接触禁止する、パスポートは弁護人が預かり海外を渡航しないことを誓約し、逃亡や罪証隠滅行為がないことを具体的に訴え、保釈を勝ち取ったようです。
  単に、被告人が「逃亡しない」、「関係者に会わない」と述べているだけでは、裁判所も保釈を認めにくいため、裁判所に保釈を認めてもらうために、今回のように弁護人が客観的にも逃亡や罪証隠滅ができない状況を作り出すことも必要です。
  刑事訴訟法には、勾留の取消しや停止などの規定もありますが、実務上認められることも少なく、身柄拘束からの解放を求めている被告人のためにも、保釈に向けた弁護人の活動は極めて重要になってきます。

4.保釈の許可だけでは、保釈はなされません。保釈保証金を裁判所に納めること必須の条件になっています(93条1項)。
  保釈保証金は、被告人が裁判に出頭しない、裁判所が定めた条件(逃亡しない、関係者に接触しないなど)に違反したときには、没取(96条)される可能性がありますが、没取されることなく裁判が終わった場合には、還付されます。
  保釈保証金の額は、「犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない」(93条2項)と定められておりますが、簡単にいうと逃亡や罪証隠滅を防ぐための必要な額(逃亡等をすることで保釈保証金が没取されるため、被告人が逃亡等をしないよう心理的な威嚇となる額)が決められるということです。
  個人的な感覚ですが、窃盗罪など殺人罪等に比べて重大とはいえない犯罪で、本人も罪を認めており、前科もなく執行猶予付きの判決が予想される場合であっても、100万円以上の保釈保証金が定められることが多いです。
  保釈保証金は、たいてい家族が用意してくれるのですが、最終的に戻ってくるといっても、100万円を超えるお金をすぐに用意できる場合は多くありません。
  その場合、一定の手数料を支払えば、保釈保証金に相当する額を貸してくれる制度があり、その制度を利用することになります。
  ゴーン氏のように、10億円以上の保釈保証金が定められる事件は、ほとんどありません(ゴーン氏の資産からすれば、10億円で少ないのではないかという意見もあるようです。ちなみに、歴代の保釈保証金の最高金額は、20億円とのことです)。前述した保釈保証金を貸してくれる制度では、10億円というお金は貸してくれません。
  保釈保証金の納め方ですが、①裁判所の窓口に直接納める、②電子納付(インターネットバンキングや金融機関のATMを通じて納める)、③金融機関のお金を預け、払込証明書を発行してもらいそれを裁判所に提出する、という方法があります。
  ゴーン氏の10億円を、裁判所の窓口で直接納めたとは考えにくく、②又は③の方法で納めたと思われますが、この10億円を誰から用意してもらったのかも気になるところです。

5.保釈請求が認められ、保釈保証金を納付して、保釈されたとしてもこれで全て終わったわけではなく、これから裁判も控えていますし、保釈の許可にあたり条件が付けられた場合には、この条件を遵守して生活しなければなりません。
  ついうっかりして裁判の時間に遅刻し開廷できなかった場合、裁判所が保釈を取り消し、保釈保証金の全部又は一部が没取される可能性もあります。また、被害者が顔見知りである場合、深く考えずに連絡をしてしまい、事件関係者と接触したとして、同じように保釈の取り消しや保釈保証金の没取がなされることもあります。
  前述したとおり、保釈保証金は、家族などが用意してくれることが多く、没取されてしまうと家族などにも大きな迷惑を与えます。

6.ゴーン氏の事件を通じて、日本の刑事事件では長期間にわたって身柄拘束をされることの問題点が、国内外から指摘されています。
  被疑者段階では、起訴するかどうかの証拠を収集している捜査段階であるため、罪証隠滅の観点から身柄拘束が必要だという考えもあるかもしれません。しかし、少なくとも、起訴されたということは、有罪にできる十分な証拠の収集が完了しているわけであり、被告人が釈放されても捜査機関が保有している証拠を隠滅できることは現実的に考えられません。罪証隠滅のおそれが現実的にも考えられない場合には、保釈は積極的に認められるべきと考えています。
  また、否認すれば、保釈が認められにくいというにもおかしな話です。無罪推定の原則がある以上、犯罪をしていないと主張している人こそ、早期に身柄拘束が解かれる必要があります。
  ゴーン氏は、108日目という長期にわたり身柄の拘束を受けていましたが、保釈によりやっと解放されました。ネット上では、「悪いことをしたのだから、これぐらい拘束されていて当然だ」、「犯罪をしているのに保釈されるのはおかしい」という意見を見ました。前述したとおり、判決が出るまでは、無罪を推定されるため、裁判が終わっていないにもかかわらず、有罪を前提に議論することは間違っています。
  今回の事件を通じて、日本の刑事司法における身柄拘束の問題点(とりわけ保釈制度の実務的な運用)を多くの方に理解してほしいと思っています。