弁護士法人 荒井・久保田総合法律事務所

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弁護士 荒井 剛
2018.06.28

調停手続において思うところ

 今日は、調停手続について思っているところを一つ紹介したいと思います。

 調停といっても夫婦間の問題(離婚等)、親子間の問題(面会交流、親権等)、相続問題といった事柄を扱う家庭裁判所で行われる家事調停と一般的な民事的問題(交通事故、借金問題、近隣住民間のトラブル等)を扱う簡易裁判所で行われる民事調停があります。いずれの調停も訴訟のように最終的に裁判官が白黒つける制度ではなく、あくまで当事者間の話し合いによって紛争を解決しようとする制度であること、また、民間から選ばれた調停委員と呼ばれる方が手続きに関与する制度である点で共通します。

 ひとたび紛争にまで発展してしまうとお互いに不信感を抱いている状態ですから、当事者間だけでじっくり対話をするということは難しくなります。このような場合に調停制度を利用し、社会経験・人生経験が豊富な調停委員(たとえば元校長先生、保護司、医師、会社経営者等)の方に間に入って戴くことで、当事者双方が冷静さを取り戻し、双方、納得がいくような解決に至るケースがあります。双方合意の上で調停が成立する以上、別途裁判を起こされたり、控訴のような不服申立てをされて別の裁判所で争われるというリスクもありません。

 私は、弁護士として、これまで多くの調停に代理人として出頭してきましたし、実際、多くの案件で調停が成立しております。調停委員の方がきちんと当事者の話を聞いてくれたおかげで調停が成立したという事件も多数見受けられます。逆にいえば調停委員の対応が調停成立にとって非常に重要だということになります。

 過去に実際に私が体験したケースですが、こちらの言い分を途中で遮り、頭ごなしにこちらの主張を否定してきた調停委員がおりました。隣り合う土地を所有するXさんとYさんとの間で土地利用を巡る紛争が発生しました。Xさんが代理人をつけてYさんを相手方として民事調停を申立てしてきました。これに対し、Yさんは、まずは自分で対応してみようと調停に出頭し、自分の言い分を伝えようとしたのですが、調停委員の1人から恫喝されたと感じるほど強い口調で責められ、今後、どのようにしていけばいいか途方に暮れていたときに縁あって私が法律相談を受けることになりました。
 Yさんから話を聞いたとき、Yさんの主張は、法律的にも不合理な内容ではなく、むしろ筋が通っているものと感じました。そこで、私は、Yさんの事件を受任し、Yさんの代理人として次の調停期日から出頭することになりました。調停委員は、民間から選任された方ではあるものの法律の専門家ではありません。そこで、事前に、しっかりと法律的に理論武装し、調停委員の方にもきちんと理解していただけるような主張を準備して臨みました。当初、Yさんから、まるで恫喝されているようだという話を聞いたとき、さすがに調停委員ですのでそこまでの対応をすることはないだろう、Yさんが大げさに私に話をしている可能性があるのではないかと思っていました。ところが、調停に出頭して驚きました。私が、Yさんの代理人として、Yさんの主張を説明しようとしたところ、1分も経たないうちにその調停委員から「もういいから、その主張は前にも聞いた、その主張は無理だから、で、どうすんの。」等と言われ、唖然としました。頭ごなしに相手の言い分を否定し、自分の意見を押し付ける典型的なタイプな人物でした。
 このとき私が思ったのは、Yさん、Yさんの話を疑ってごめんなさい、ということでした。と同時によくこんな調停委員がいるなと驚きました。このような調停委員のもとで調停が進めば不公平だと感じたので、この調停委員を外すことができないかと考えました。

 しかし、そもそも民事調停法上、また、家事事件手続法上、不公平な調停を行う恐れがあることを理由に、こちらが調停委員を外してもらうことを求める手続きがありません。これが裁判であれば、民事訴訟法上、「裁判の公正を妨げる事情があるとき」は裁判官を忌避(きひ)することができるとされています(民事訴訟法第24条)。しかし、この忌避制度は、調停にはないのです。

 結局、この調停は、こちらが我慢に我慢を重ね、最終的にXさん側の代理人との協議を経て、和解を成立させることができました。しかし、これまで接してきた多くの他の調停委員の方であったならばもっとスムーズに調停が進んでいたと思います。

 ちなみに、家事事件手続法の制定にあたり、忌避制度の導入が検討されたそうですが、調停は、裁判のように白黒つける制度ではないこと、当事者は調停委員の意見に強制されないこと、調停委員の意見に不満があればこれを拒めばよく、調停の申立てを取り下げることが可能であるため、忌避制度を導入するほどではないとの理由で導入が見合わせられたようです。しかし、いずれも説得的な理由だとは思えませんし、調停を申し立てられた側であればそもそも調停を取り下げることもできません。一方的に調停を申し立てられた挙句、まったく話を聞かない調停委員がいるとなれば相手方としてはたまったものではありません。現状では、裁判所に対し、問題があると思われる調停委員の言動について苦情を述べることしかできません。実際に、そのような調停委員にあたってしまった場合には、何とか耐えるか、あるいは早期に調停を不成立にさせるしかありません。

 もっとも、調停委員の方の名誉のため、上記ケースのような調停委員は本当にごく稀であり、基本的には本当に忍耐強く当事者の話を聞いていただけていると認識していることを申し上げたいと思います。