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弁護士 小田 康夫
2018.06.07

企業を復活させる処方せん(前編)~主に私的整理について~

「そろそろ会社を息子に引き継ぎたい」
「借金が多くて、会社を誰も引き継いでくれない」
「会社には知的財産やノウハウも多く残っていて、廃業させるにはもったいない」
「自分の自宅も銀行の担保がついているからやめるにやめられない」
「私も連帯保証人になっているから、会社をやめたら保証債務を請求されてしまう」

実際、事業承継をしようにも、中小企業の経営は忙しい・・・。
どこから手を付けようと悩んで何もしなかったり、経営者の方が亡くなった後に相続人の中で争いが生じてしまったり、だれも引き継ぐ人がいなくて、企業が存続できなくなったり、そんなケースがゴロゴロあると聞きます。

データをみてみましょう。
1999年、中小企業の経営者は、483.7万人でした。
それが2014年には、380.9万人となりました。
この15年間で100万人が減少した計算になります。
また、ここ20年間で、経営者の数が多い年齢は、47歳(がグラフのピーク)から66歳へ移行しており、経営者の引き継ぎがうまくいっていないのが現状だと分析されています。

少し興味があって、先月の26日、東京は千代田区、ホテルルポール麹町というところで、「中小企業の事業承継と事業再生」というシンポジウムに参加してきました。
午後1時から始まり、○「事業承継の現状と手法」、○「事業承継に関わる税務問題」、○「事業承継と事業再生の連携・中間的手法の必要性」、○「事業承継・事業再生円滑化にむけた経営者保証ガイドラインの活用等」、○「私的整理から法的整理への連続性」などと題するパネルディスカッション・講演が連続する一日でした。みっちり5時間、事業承継の仕組み・今後の課題に触れてきました。東京大学教授の松下淳一先生や弁護士、税理士等のパネラーから最新の事例などが紹介されました。なお、債務が積み上がった際に、金融機関などの支援を受けながら、裁判所のチカラを借りずに行う借金の整理の方法を、「私的整理」と言います。




さて、「会社の借金を後に残さない」ためにどうするか。
「事業承継」にあたってどんな制度があるか。
制度を利用しないにせよ、経営者であれば、「こんなメニューがある!」ということは知っておいて損はないでしょう。
なお、「事業承継」というと何か小難しいですが、つまるところ、「会社をどう存続させていくか」という戦略を考えるということです。事業承継と絡めて会社を立て直すために、どんな処方せんがあるか、そのメニューをみて、どんな場面で処方されるべきか、どの時点ではあまり効き目がないのかなど、処方せんの種類と効能(メリット)は、知っておいて損はありません。





さてさて、企業の経営状態をこんな風に場合分けしてみましょう。
①会社の状態=健康
②会社の状態=風邪気味
③会社の状態=インフルエンザ
④会社の状態=初期の癌などやや重い病気
⑤会社の状態=中期の癌など重い病気
⑥会社の状態=末期の癌などとても重い病気


こう分類すると、各フェーズでどんな処方せんを出すかは、当然ながら異なります。


①健康=黒字経営かつキャッシュフローも正常
処方せん→必要なし
②風邪気味=専門家は不要=手元資金不足
処方せん→追加融資など
③インフルエンザ=専門家が必要=慢性的な資金不足
 処方せん→私的整理(リスケなど)
④初期の癌=専門家が必須で手術を要する=多額な債務、債務超過
処方せん→(再建型の)私的整理(+経営者保証ガイドライン、+特定調停)
事業再生ADR(+経営者保証ガイドライン、+特定調停)
⑤中期の癌=速やかに手術が必要=多額の債務超過
処方せん→再建型の法的整理(民事再生、会社更生)
⑥末期の癌=終末医療
     清算型の私的整理
     破産


①②であれば、専門家が出る場面はまだないかもしれません。
では、③④ではどうでしょうか。












歴史を振り返ると、私的整理の手法はどんどん整備されています。
前記のように③④のような症状でも、処方する薬が何点か紹介されています。
具体的には、
(1)純粋な私的整理
(2)私的整理ガイドライン(2001年9月~)
(3)事業再生ADR(2008年10月~)
などです。
以上の(1)~(3)のような仕組みがあることは知っておいて損なしです。
また、ここから感じられるのは、企業が市場から退場してしまうと、その企業だけではなく地域経済にも大きな損害になることがあり、そのような損害を回避するために、(決して万全ではありませんが)イロイロな知恵が結集されつつあるということです。

実際のところ、(1)の純粋な私的整理は、よく行われています。
企業は手元資金が苦しくなると、メインバンクから追加融資などと引き換えに支払期限を延ばしてもらう(いわゆる「リスケ」)ことが多くあります。これも一つ私的整理。
また、金融機関を一つに集中させる方針も取られることがあります。もっとも、このような私的整理は一つの債権者とのみ行われるもので、他の債権者との間で不平等が生じることがあります。


この不平等を是正し、公平性(衡平性)を確保する手段として、(2)私的整理ガイドラインが利用され始めました。
基本、債権者全員の同意が必要となります。
また、私的整理と組み合わせて、簡易裁判所の「特定調停手続」を利用することも可能です。
金融機関から債務免除などを受けて過剰債務の負担を軽減することができれば再建は可能です。実際、金融機関としても債権放棄等の結果、税務上、損金算入ができれば、応じる余地があります(現状、損金算入できるかどうか確実ではありませんが、中小企業再生支援協議会の適切な関与があれば、税務上損金算入が認められています。)。
さらに、ここに「経営者保証ガイドライン」の考え方に基づいて、経営責任を取って、旧経営者が退場し、新経営者へ事業承継を行うことも行われています。

ただ、課題も山積しています。

(ア)「債権者全員同意」の当然の帰結で、一部の債権者が反対すればうまくいきません。
実際、全員の同意が難しく、私的整理ガイドラインは積極的に利用されるような状況には至っていません。シンポジウムでは、地元企業を再生する際に「外資系」の会社が反対して失敗することがあるとの報告もありました。

(イ)「経営者保証ガイドライン」によれば、旧経営者が企業から退場するにあたって、旧経営者の保証から外れることが予定されています。もっといえば、近年の企業再生の考え方からすれば、新経営者も保証をしないことが予定されているのですが(いわゆる「なし・なし」が目標)、実際、金融機関はそう簡単には保証を外してくれず、かつ、新しい経営者にも企業の債務に保証を要求すること多いようです(「あり・あり」が実態)。

(ウ)やや専門的ですが、「DIPファイナンス」(事業再生までの一時的融資)が法的整理に至った段階で、ちゃんと保護されるのか、という問題もあります。

上記の問題意識に応えようとしたのが、(3)の事業再生ADRです。
(ア)多数決を導入し、(イ)経営者保証も一体的に整理をするよう要請し、(ウ)万が一、法的整理に至った場合でも裁判所が優先的な取り扱いをするよう考慮する条項を加えています。すなわち、事業再生をする企業は、当然ながら再建のための資金が必要ですが、通常、お金がありません。そんなとき、企業を助ける救世主となるのがスポンサー企業です。そこから緊急融資(DIPファイナンス)を受けることで企業は生き延びることができます。ただ、スポンサー企業としても、融資をしたお金が、最終的に他の債権者より有利な扱いを受けないとすれば、そのようなハイリスクな融資はできず、結果的に、企業の私的な事業再生の道が閉ざされてしまいます。そこで、産業競争力強化法59条60条は、法的整理(民事再生法、会社更生法)の段階で、当該融資(DIPファイナンス)を特別に保護しよう、という要請に応えようとしています。

なお、実態としては、費用としても、「法的整理」以上に掛かる例もあり、利用実績もそこまで積み上がっていないようです(↓の経済産業省HP参照)。
http://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/adr/ADRH29.pdf

以上の再建型の私的整理も不可能な場合は、やはり法的整理に入ります。法的整理の手法(⑤⑥)については、また次回。ちなみに、⑦お金がなくて終末医療さえ受けられないという状態もあります。このときの処方せんはなく、破産をするお金がすらないとどうしようもありません。

以上のような処方せんと切っても切り離せない問題が、税金です。
事業を息子さんなど第三者に引き継ぐ場合の税金問題に関わって、2018年4月1日に大幅な改正(特例)がありました。
この事業承継税制では、特例(今のところ10年の期限付き)で、会社を次の世代に残すことが容易になりました。株式を承継するにあたり、贈与税・相続税の全額猶予となる制度ですから、今年以降10年間は、会社の引き継ぎが大幅に増えると予想されます。







東京で行われるシンポジウムには私的な勉強会ですから、弁護士会から補助金がでているわけではありませんが、当事務所が取り組むべき課題だということで事務所を代表して研修に参加してきました。借金の問題を放置せず、次世代の経営者にどのように引き継ぐかは、日本の課題であり、道東の企業経営者にとっても喫緊の重要課題だと思います。
まだまだ十分ではありませんが紹介したとおり私的整理のメニューも増えました。
人口減少社会の中で、地方の経済をどのように維持・発展させていくかという視点でも、日々の業務を考える必要があると感じているところです。