弁護士法人 荒井・久保田総合法律事務所

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弁護士 荒井 剛
2018.04.26

「○○ハラ」の難しさ

 最近、ニュースで財務省のセクハラ問題が連日取り上げられております。また、少し前には、とある女性議員が自分の政治家秘書に対し何度も暴言を吐いていたパワハラ問題も話題となりました。

 法律相談や調停・訴訟の中でもパワハラ、セクハラ、モラハラという言葉が多く登場するようになってきたと思います。特に、離婚問題では、「誰の金で生活できていると思っているのか」、「俺がいなくなったら生活できないだろ」などと言われ、精神的に支配され続け、苦しかったという女性からの相談が多くなってきたという印象を受けます。これは典型的なモラハラ事例といえるでしょう。

 ところで、「○○ハラ」の「ハラ」はハラスメントの略になりますが、一体、どのくらいの種類のハラスメントがあるのかと思い、ネットで少し調べてみるとその数の多さに驚きました。20以上、中には40以上のハラスメントが挙げられているサイトがありました。代表的なハラスメントと呼ばれる、セクハラ、パワハラ、モラハラ以外にも、アルハラ(アルコールハラスメント)、マタハラ(マタニティハラスメント)は耳にしたことがあるかと思います。それ以外にも最近言われるようになってきたハラスメントとして次のようなものがあります。

・パタニティハラスメント
 最近、育児を積極的に行うパパが「イクメン」と呼ばれたりもしていますが、育児のために時短や休暇を希望する男性社員に対するハラスメントを指します。例えば、「子どもが熱を出したと連絡があったので早退させてくださいと言われ、奥さんに迎えに行ってもらえ」というのもこれに該当します。

・エイジハラスメント
 年齢を差別して行われる嫌がらせを指します。「若いから何もわかっていないよね」「年寄は黙っていて」等。老若男女だれもが加害者及び被害者になる可能性があるハラスメントです。なお、「君はゆとり世代だからなあ」というのもこれに該当します。ついつい「ゆとり世代だよね」と言ってしまうかもしれませんが、気を付ける必要があります。

・ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
 「女なんだから・・」「男ならもっと堂々としろ」など女らしさ、男らしさ、という基準で差別的な言動をとったりすることを指します。LGBTに対する差別的発言などもこれにあたると考えられています。

・ソーシャルメディアハラスメント(ソーハラ)
 フェイスブックやLINEなどのSNSを通じ、友達登録を強要したり、部下の投稿等に頻繁に「いいね」を押し、必要以上に絡んできたりするという場合を指します。投稿に「いいね」を押すだけでなくコメントも多数書き込み、暗に行動を監視していることを知らせるといった場合もこれに該当すると言われています。ただどこからがハラスメントになるのかその境界線が判然としません。投稿に「いいね」を押しただけでハラスメントと言われてもなという気がします。

・ハラスメントハラスメント(ハラハラ)
 何かにつけて「ハラスメント!」と言ってくる行為自体がハラスメントであるというもの。
 わかりにくいハラスメントですがこのようなハラスメントもあるようです。

・スメルハラスメント
 体臭・口臭、加齢臭、香水等の臭いによって周囲の人に不快感を与えていることを言うそうです。ただ、臭いは本人自身が気が付いていないこともあるため一律に「ハラスメント」と称していいかは疑問ではありますし、一歩間違えればいじめになってしまうおそれがあるような気がします。

・スモークハラスメント
 意味は読んで字の如しです。喫煙者が吸うタバコの煙によって周囲に迷惑をかけるハラスメントです。電子タバコでも同じことです。電子タバコならいいよねという喫煙者がいますがスモークハラスメントという意味ではまったく同じだと思います。

 ほかにも無断で写真を撮影したり、半強制的に写真に写り込もうとするフォトハラスメント、一人目を出産し終えた女性に対し二人目は作らないのかと聞く二人目ハラスメント、ラーメンを食べるときにズルズル音を立てて食べるヌードルハラスメント、家事ハラスメント、カラオケを強要するカラオケハラスメント、血液型で性格を決め打ちするブラッドタイプハラスメントというのもあるそうです。まだまだありますがやめておきます。

 無理矢理「○○ハラスメント」と名付けられているものもあるような気はしますが、これだけ世の中に「○○ハラ」と呼ばれるハラスメントが存在しています。対象となる発言や行動自体は昔からよく行われてきたものが多いと思います。そして、周囲の人が不快に思っていたとしてもそれが表に出てこなかった、つまり、我慢していたということもあるだろうし、それが常識だから仕方がないと考えていたと思います。しかし、世の中の常識・価値観は変わります。その変化を受け、多くの新しい「〇〇ハラ」が顕在化し、また、すでに存在していた「○○ハラ」も時代の変化により、対象となる内容が変容してきていると思います。

 喫煙率が高い時代、タバコの煙に囲まれて生活するのは日常でした。しかし、今は、喫煙率が減少し、世の中全体が禁煙化に向かっています。常識・価値観が変わりました。もともと有能であったとしても女性だという理由だけで社会進出が妨げられてきました。しかし、今は、まだまだ十分でないかもしれませんが、女性の地位も向上し、男女共同参画社会を実現するための動きも非常に活発になってきています。これも社会の常識・価値観が変わってきたといえます。LGBTに対する理解も徐々に広まりつつあります。さらに、我慢してでも酒を飲まないといけないという時代ではなくなってきました。これも社会の常識・価値観が変化してきたことの現れです。この価値観や常識の変化に適応できず昔の常識・価値観のままで行動してしまうと「〇〇ハラ」だといわれることが多いのではないかと思います。「昔は全然問題なかった」などと言ったとしてもそれは「昔」の話で、今の時代ではダメだということになります。また、「昔」も問題がなかったというより、ただ周囲が我慢していただけだということもあります。また、「これくらい」なら大丈夫ではないかと言ったとしても、「これくらい」と言っている内容が現在ではもはや「これくらい」では済まされなくなってしまっているということではないかと思います。要するに、時代の変化についていけていないということではないかと思います。

 数年前、アメリカのテレビドラマ「24」を観ていたとき、何シーズン目の第何話だったか忘れましたが、あるシーンがすごく記憶に残っております。男性上司が新しく赴任してきた新人女性の部下に対し、頑張ってねと声をかけ、部下の肩をポンポンと軽く2回ほどたたくシーンがありました。上司が去った直後、新人女性が、他の同僚に、今の行動見ていましたか?セクハラですよね?と尋ねるシーンがありました。このシーンを観た当時、正直、えっ、これでセクハラにあたるの?と思いました。しかし、あれから数年が経過した今、あのシーンを思い返し、どう思うかと聞かれれば、素直にセクハラにあたる可能性が高いと答えると思います。決して無理して優等生的な回答をしようとしているのではなく、素直にそう思います。おそらくこれだけ世間でセクハラ問題が取り上げられ、知らず知らずの間に世間だけでなく自分自身の価値観・常識も少しずつ変わってきたのだと思います。

 今後も新しい「○○ハラ」が登場するかもしれません。また、時代の変化によって、すでに言われている「〇〇ハラ」の内容もまた変化するかもしれません。したがって、どのような発言や行動が「○○ハラ」に該当するのか、そして、どう予防するのかというのは非情に難しい問題だと思います。しかし、予防策としては常に今の時代の感覚、価値観を意識し、変化する価値観に適応していくことが重要なのではないかと、最近の財務省セクハラ問題に関するコメント等を見聞きしながら感じました。