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弁護士 小田 康夫
2018.03.08

がんばって話しているのに取り上げてさえもらえない問題。~とある刑事事件で~

刑事裁判で、前に、こんなことがありました。
弁護人としては、

A という事実

Bという事実

Cという事実(例えば、犯行後、被告人はすぐに謝罪をした)

Dという事実(例えば、謝罪の後、被告人は警察に事情を話した)


という流れで、事実が経過したと主張しました。
検察官としては、

A

B

Y(≠C)

Z(≠D)

という流れで、事実が経過したと主張しました。
ただ、検察官としてもY→Zという事実経過についてそこまで強く争っているわけではなく、C→Dという事実経過もありうるという程度の争い方でした。

結論として、裁判所は、どう認定したかというと、

A

B
と指摘するのみでした。
C(orY)事実も、D(orZ)事実も、一切触れられず、結論が導かれていました。



ところで、刑事訴訟法上はこんな規定があります。
「裁判には、理由を附しなければならない。」(刑事訴訟法44条1項)

この「裁判」には、有罪判決も含みます。
「有罪の言渡をするには、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならない。」(刑事訴訟法335条1項)

じゃあ、有罪判決の理由をどこまで明示すべきか。

これについては、明示した条文はありませんが、同法335条の2項に、「法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由となる事実が主張されたときは、これに対する判断を示さなければならない。」とされています。

そうすると、「法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由となる事実」(例えば、正当防衛や自首)には、裁判所は回答する義務があり、

逆に(反対解釈をすると)、それ以外の場合には、理由を付す(回答をする)義務はないということになりそうです。


さて、そうすると、「裁判所には、検察官や弁護人が指摘した事実全てについて回答義務がある」とは言えないようです。

検察官や弁護人が指摘した事実全てに回答するとなると判決を書くのも大変ですし、とりわけ、裁判員裁判には、時間的な制約もありますから、不可能を強いることになり、判決に付す理由の範囲には一定の制限があってしかるべきでしょう。

ただ、弁護人や検察官が主要な争いのポイントとして設定したところについてまで、判決文で一切触れないということには、どうも納得ができません。

というのも、裁判員裁判ではとりわけ、公開の法廷での裁判(公判)をする前に、裁判所と検察官と弁護人で、双方の主張を整理するため、話し合いの機会が持たれており、その中で、主要な主張は、数点(私の経験では、弁護人の場合、多くて3つ程度)に絞られています。

そうであるにもかかわらず、そのわずかなポイントすら判決に書けない(あるいは、あえて書かない)というのは、裁判所の怠慢でしょう。

検察官の立場としても、主張を絞り絞って指摘していますから、それに対する回答をしてもらいたい。
他方、弁護人としても、被告人に代わり主張しているのです。こちらの主張が裁判所に取り上げてさえもらえなかった場合には、被告人と弁護人との間の信頼関係にもヒビが入ってしまう場合があります。

実際、弁護人(あるいは検察官)の主張が結論に影響をおぼさないとすれば、「C→D、はたまた、Y→Zは結論に関係がないため、事実認定をしなかった」と明示することだって、可能なのです。

弁護人・検察官の主張の主要なポイントに関しては、判決文中に取り上げることは容易で、かつ、取り上げてもそんなに不都合がない部分ですから、私としては、積極的に判決文中に書いて欲しいと思っているのですが、みなさんはどう思われるでしょうか。