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弁護士 鍛冶 孝亮
2017.10.13

2017衆議院解散選挙について

1.9月25日に安倍総理が衆議院の解散を表明し、10月10日に衆議院選挙が公示されました。
  今年の夏の時点では、まさか今年の秋に衆議院の解散総選挙を行うことになると予想していた人は少ないのではないでしょうか。
  今回の解散を「大義なき解散」であると呼んでいる人もいるようです。
衆議院の解散については、憲法の条文上明らかになっていないこともあり、なかなか理解しづらい部分なので、今回コラムで取り上げようと思います。

2.衆議院の解散(以下、「解散」といいます。)とは、衆議院議員(以下、「議員」といいます。)の任期満了前に議員の地位を失わせるものです。
  解散がなければ、議員は任期の4年間、議員としての仕事ができますし、給費(憲法上は「歳費」と表現されています)ももらえます。
  しかし、解散となれば、時間、お金、労力を使って当選したにもかかわらず、自分の意思とは無関係にその地位を失うことになってしまいます。解散による選挙で当選しなければ、次の選挙まで議員の仕事はできません。このように解散は、議員とすれば怖い制度ともいえます。
  なお、日本は議院内閣制を採用していますので、多数の議員が所属している政党から内閣総理大臣や国務大臣が選任され国政を担うのが原則です。複数の政党が連立して、政権を担当することもあります。
選挙により国民から選ばれた政権与党が、政策の失敗などから支持を失った場合、一日も早く国民の信任を得た政党に政権を担ってもらう必要もあるといえ、解散は政権交代を促す制度ともいえます。
  このように、解散は、議員や政党にとって重要な制度です。

3.解散で問題となるのは、誰が解散するのか、どのようなときに解散ができるのかという点です。
  憲法上解散の根拠となる条文としては、次のようなものがあります。
  まず1つ目は、天皇が、内閣の助言と承認により、衆議院を解散することができると規定している条文です(憲法7条3号)。
  2つ目は、内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならないと規定している条文です(憲法69条)。
  学説や先例によれば、国政に関与する権能がない天皇が解散できるとされるのは、内閣の助言と承認が根拠になっている点に着目し、実質的に解散を決定できるのは内閣であり、解散ができる場合とは、憲法69条で定めている場合に限られないとする考え方が主流とされているようです。

4.今回の解散について、野党である民進党などは、憲法53条に基づき、臨時国会(審議の必要が出てきたときに臨時で召集される国会)の召集を強く求めたにもかかわらず、安倍内閣が臨時国会を召集して野党が求める審議を行わず、そのまま衆議院を解散したため、憲法違反と主張している人もいるようです。
  前述したように、内閣が解散できるのは憲法69条で定めている場合に限られないとする考えが主流でもありますので、今回の解散が憲法違反に該当するのかは難しい問題であると考えます。
  仮に、今回の解散は憲法違反が認められるので選挙は無効であるという裁判を起こしたとしても、裁判所は、統治行為論(国家統治の基本に関する高度な政治性を有する国家の行為については、裁判所による司法審査は行わないという考え)を根拠に、憲法違反かどうかを審査しない可能性もあります。
  過去に、憲法違反の解散により議員の地位を失ったとして、任期満了までの歳費を求める裁判がありました(苫米地事件)。最高裁判所は、統治行為論を理由に訴えを認めませんでした。この判決の中で、最高裁判所は、解散の是非は、「最終的には国民の政治判断に委ねられているものと解すべきである」と判示しています。
  今回の解散方法の是非についても、国民は選挙を通じて意思表示する必要があるのかもしれません。

5.今回の選挙について個人的な考えになりますが、今回の解散に大義がないと主張している野党についても、少し前までは安倍内閣の退陣を迫っていたわけですから、自分たちにとって不利な時期に解散することになった点を言及するのは筋が通らないとも思います。
最後になりますが、解散を決めるのは内閣と言われますが、日本によって相応しい衆議院議員を決めるのは国民一人一人になりますので、有権者の人は必ず選挙にいって意思表示をしてほしいです。

(参考条文)
憲法7条 
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行う。
三 衆議院を解散すること。
憲法69条
内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。