弁護士法人 荒井・久保田総合法律事務所

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弁護士 鍛冶 孝亮
2017.05.24

自白の強要は許されるのか

1.平成29年4月9日付けの朝日新聞で、「自白強要は仕方ない? 高校生7割が肯定的1千人調査」という見出しの記事がありました。

法教育に取り組む研究者のグループが、高校生に法に関する知識や考え方を聞く調査を行ったようです。

記事には、日本国憲法で拷問は禁止されているが、拷問によって得られた自白が事実であるなら、その自白を有罪の証拠としても構わないという問いについて、正解の「×」が66・2%にとどまったこと、多くの人命にかかわる重大な犯罪が発生しようとしている場合に、共犯者と考えられる者に自白を強要してもいいと思うかどうかの問いについては、「とてもあてはまる」又は「まああてはまる」を選択した回答が多く(合計67.8%)、約7割が自白の強要に肯定的であったことなどが書かれていました。

この記事を読んだ人もいると思いましたが、特に法曹関係者は結果に驚いた人が多数だったのではないかでしょうか。

2.刑事事件で有罪と判断するためには証拠が必要です。

「自白は証拠の女王」という言葉があるように、自ら犯罪行為を認める自白は有罪認定のために重要な証拠と考えられています。

現在は、科学的な捜査(DNA鑑定、防犯カメラの分析など)が発達したため、本人の自白以外で有罪に繋がる重要な証拠を集められるようになりました。しかし一昔前は、このような科学的な捜査で証拠を収集することができなかったので、犯人だと思われる者を有罪にするために、その者の自白を得ることが優先されました。

自白を迫っても否認する者も当然います。そこで、捜査機関は、自白を得るためには、拷問や脅迫などで自白を強要することもありました。例えば、殴る蹴るなどの直接的な暴力を振るうことや、「素直に罪を認めれば早く家に帰ることができる」、「素直に認めれば刑が軽くなる」など心理的に脅迫して自白を迫るなどです。

実際に犯行に関わっていない者であっても、外部との交流が遮断され毎日長時間にわたる取調べを受けていると心理的に追い詰められ、拷問や脅迫に耐え切れなくなり虚偽の自白をしてしまうことがあります。虚偽の自白に至るまでの心理過程を解き明かしている『自白の心理学 』(浜田寿美男著、岩波新書)という書籍がありますので、気になる方は一読していただければと思います。

なお、犯罪に関わっていないのであれば答えようがないのだから、虚偽の自白をすることは考えられないとも思えるかもしれませんが、捜査機関側で考えたストーリーを示し、「この内容で間違いんだろう」と誘導していくため、一見するともっともらしい内容の自白が生まれるのです。

裁判でその自白の内容が虚偽であると判断されることなく、有罪の証拠として扱われたことで、えん罪(無実でありながらも犯罪者として扱われること)が生まれました。

えん罪で刑務所に収監されたり場合によっては死刑とされることもあります。これはいうまでもなく重大な人権侵害です。

3.このように自白の強要と人権侵害には深い関係があります。

日本国憲法では、「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない」と規定されています(日本国憲法38条2項)。そして、刑事手続を定めた刑事訴訟法でも憲法と同様の内容の規定が存在します。

先ほど説明したように、歴史的にも見ても捜査機関による拷問などで、虚偽の自白が生まれ、これがえん罪に繋がりました。

拷問などによって得られた自白が、仮に真実だったとしても、これを証拠として認めてしまうと、捜査機関による拷問などはなくなりません。そもそも、拷問などで得られた自白の内容が真実であることよりも、むしろ拷問などから逃れるためになされた虚偽の内容である可能性のほうが高いといえます。

そこで、憲法や刑事訴訟法では、拷問などによって得られた自白が真実であるのかどうかにかかわらず、有罪の証拠として扱うことができないと定め、捜査機関による自白の強要の禁止を図っているのです。

4.記事の調査で、自白強要に肯定的に回答した高校生の中には、犯罪行為に関わっていないのであれば必死に否定するはずであり、自白したということは事実に間違いないからだという考えをもっていた人がいるかもしれません。

やってもいないのに虚偽の自白をしてしまうことや先ほど述べたとおりです。虚偽の自白を迫る取調べは昔だけの話ではなく、実際に刑事事件の弁護をしていると、捜査機関が、「正直に言わないと長い期間身柄拘束されてしまう」、「家族や会社の人にも迷惑がかかるけどいいのか」と追い詰め、自白を迫ることもないわけではありません。

例えば、痴漢で捕まったケースでは、認めれば罰金を支払うだけで済む場合も多いので、身柄拘束をされないためにやってもいないのに認めることもあると思います。

また、自白強要に肯定的に回答した高校生の中には、多数の人の生命や身体に危険が生じないためには、テロの共犯者と思われる者に自白をさせ、未然にテロを防ぐことを優先すべきと考えをもっていた人がいたかもしれません。

テロを防止すべきという考えはそのとおりかと思いますが、虚偽の自白でテロの共犯者にでっちあげられえん罪が生まれる危険性はあります。

国家による刑罰は、国民の自由を奪うなど国民の人権に大きな影響を与えます。もしえん罪で自由を奪われてしまい、後にえん罪ということがわかっても、その人の人生を取り戻すことができません。そのため、国家による刑罰は謙抑的であるべきとして、「10人の真犯人を逃したとしても、1人の無実の人を処罰してはならない」という言葉があります。

有罪無罪の判断の際には、決して無実の人が処罰されないよう最大限に考慮される必要があるのです。

えん罪に繋がる自白の強要は許されません。

5.多数の死者を出すテロ事件が世界各地で勃発するなど、若い世代にも治安についての不安が生じていることも、自白の強要に肯定的という回答が出た理由なのかもしれません。

しかし、繰り返し説明しているように、自白の強要は虚偽の自白を生む結果となり、強いてはえん罪を生み出すことにほかなりません。

学校の教科書でも、自白の強要禁止の説明は記載されているはずですが、自白にまつわる歴史的な背景がわからなければ、なぜ自白の強要が禁止されているのか理解するのはなかなか難しいと思います。

冒頭のアンケートは、法教育に取り組む研究者のグループが行ったとのことですが、私も法教育の関係で、小学校に行って法律のことを話したことがあります。

機会がありましたら、自白の強要に関することを話してきたいと思います。